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2012年3月13日 (火)

備忘録・エリアーデ<建設にまつわる儀礼>

エリアーデ著作集13「宗教学と芸術」せりか書房・中村恭子訳P122~P134


「黒の王子」と呼ばれる伝説上の王子が
工匠マノルと9人の仲間達にこの世で最も美しい僧院を彼のために建てるよう依頼する。石工匠たちはその仕事に取り掛かる。ところが工事は一向に捗らず
毎夜壁が崩れ落ちてしまう。ある日工匠マノルは夢を見て
これを仲間達に伝える。ここで、民衆の詩人の述べるところを傾聴する事にしよう。


ーーー親愛なる石工匠たち
親愛なる職人仲間よ、
眠りの中で私は
驚くべき夢をみた。

誰かが空から私に
次のように言うのが聞こえた。
翌くる夜明けの一番に
夫あるいは兄に食事を
持ってきた妻か妹を
おまえたちが
潔く意を決して
壁にぬりこめないかぎり、
築いた物は
その晩に崩れ落ちてしまうだろう。

だからもしおまえが
世にならぶもののない
この聖なる僧院を
完成したいと望むならば、
誓いを立て
契らねばなるまい。
明日の夜明けに
最初にやってくる女を
生贄にして
壁にとじこめるのだ!

夜明けになると
マノルは飛び起きて
廃墟の壁に
攀じ登り、
道をよく眺め
遠くを見わたす。
おお、哀れな匠は
誰の姿を見たのか?
愛する人、アンヌ、
牧場の花!
彼女が近づきつつあった・・・・・・
飲み物と食べ物を
彼の許に運びつつあった・・・・・・

跪き、涙にくれて、
彼は主に祈る。
ーー雨を世界に降らせ給え、
河をあふれさせ
大地を走る奔流に変える雨を。
水かさを増加せしめよ。
わがいとしき人が倦み疲れ
前に進むことのできないように。

慈悲深い神は
彼の願いを聞きとどけ
直ちに波立つ水を
空から流した。
だが、俄かな雨をものともせず
水を、奔流を
妻は横切る・・・
マノルは溜め息をつく。
心は張り裂けんばかり。
涙にくれて十字を切り
そして主に祈る。
ーー風を吹かせたまえ、
樅の木をたわませ
松ノ皮を剥ぎ取り
山をゆるがすほどの
力に満ちた風を!

さてその妻はと言えば、
風をものともせず
おぼつかぬ足取りで
疲れ切ってたどりつく。

他の石工たち、
巧たち、職人仲間は
そこに彼女を見て
一様に安堵する。
マノルは女を抱きよせ
心も千々に抱擁し
そして彼女を腕に
梯子を上る。

ーー何もこわがることはない、
私のいとしい人。
私たちは戯れに
お前をあそこに塗りこめたいのだ!


壁は高くなり
女を包み隠していく。
まず足もとまで、
それからふくらはぎまで。
もはや哀れな愛人は
殆どほほえむこともない。
ーーマノル、いとしいマノル
ああ工匠マノル
大きな壁が私をしめつける!
からだ中が軋んでいる!

だがマノルは無言のまま
黙々と作業を進める。
壁は高くなり
彼女を包み隠していく。
まず足もとまで、
次にふくらはぎまで、
そして腰まで、
さらに胸まで。

哀れなアンヌは
彼の目的も知らずに懇願する。
ーーマノル、いとしいマノル
ああ工匠マノル
大きな壁が私をしめつけ
胸をつまらせる!
おなかのいとし子が
苦しみの声をあげている!

だが壁は高くなり
彼女を包み隠していく。
足もとから腰まで、
次に胸まで、
それから顎まで、
さらには額にいたるまで。
もはや何も見えぬほど
みごとに壁が築かれる。
けれど壁の向うから
嘆き悲しむ女の声が聞こえる。
ーーマノル、いとしいマノル
ああ工匠マノル
大きな壁が私をしめつける!
私の命は絶えようとしている!

美しい渓谷の
下流にあるアルジェシュ、
その岸辺に
僧院で祈りを捧げる献げるために
黒の王子が船をつける。
王子と近衛兵は
陶然として僧院を眺める、
王子は言うーー汝ら石工
工匠たち、職人たちよ
胸に手をあて
懼れずに申しのべよ、
汝らの技量によって
我が栄光の
そして我が記念の名のもとに
さらにみごとな僧院を
たやすく作りうるかどうかを。

偉大な十人の石工たち、
匠たち、職人たちは
勾配のある高い屋根の
骨組みに腰をすえ
愉しげに
ひどく誇らしげに答える。
ーー我ら石工たち、匠たち
職人たちがそうであるように
この世では二度と
見出しうることはないだろう。
けれど我らには
何処の大地であろうとも
築きうることを知るがよい。
さらにみごとで
眩いばかりに光輝く僧院を!

さて王子はこれを聴き
瞋りもあらわに命令する。
足場の土台を取り払え、
勾配のある高屋根の
あの骨組みに
技にすぐれた
十人の石工匠たちが
とり残されてしまうようにと。

だが石工匠たちは巧みにも
翔び去る翼、
屋根の板の翼を
作りあげ・・・・
次から次へと舞いおりる。
けれども落下したその場所が
彼ら自身の墓になる。

さて哀れなマノル、
工匠マノルは
まさに跳び立つ瞬間に
壁から流れる声を聞く、
息苦しげにかすかに響く
いとしい声を。
その声は泣いて呻くのだ・・・・
ーーマノル、いとしいマノル
ああ工匠マノル
大きな壁が私をしめつけ
胸をつまらせる!
いとし子が苦しみの声をあげる!
私の命は絶えようとしている!

その声があまりに近く聞こえたので
マノルは心もあらぬまま、
勾配のある高屋根の
骨組みの上からくずれ墜ちる。
そして翼が
地面に砕けたその場所に
澄み切った水が溢れだす、
塩辛く苦い水が。
その痛ましい流れには
波の涙が溶け込んでいるのだから。

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